今日の読み終わり

伊藤智義 『スーパーコンピューターを20万円で創る』
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スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)

スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)



この本はとっても面白かった。タイトルからだと、今のご時世だと「スーパーコンピュータ並みのパソコンを20万円で自作する」パソコン自作マニア的な話なのかと思われるかもしれませんが、そうではありません。重力多体系の数値計算を行うためだけの『計算機』を設計し作り上げた人たちの物語です。"つくる"が"創る"なのはそこら辺なのです。浪漫を感じました。
私も星や宇宙に憧れて物理学の道を辿った身です。私は原子核理論を研究していました。教授に「てんそる君は計算機が好きみたいだから、どんどん計算してよ」と何度も言われていました。私は「コンピュータ」と言われる物には何でも興味を示していました(ファミコン含む)。関数電卓ポケコンを常に持ち歩き、周りの同僚よりいち早くパソコンも手に入れて、パソコンの活用法には詳しくなっていました。「パソコン大好き!」な私を見ていて教授は「こいつなら嫌がらずに計算してくれそう」と思ったのだと思います。しかし当時の私ときたら、勉強に疲れたと言っては研究室のパソコンでゲームをやったり、当時はまだ今のように普及していなかったインターネットばっかりやっていました(大学構内はネットに常時接続だった)。・・・と言うのも、その当時の私はパソコン⇒計算機という発想があまり無いし、数値計算の手法は勉強して知ってはいても、それをどう活かしていいのか、どうプログラミングすればいいのか、そして得られた結果(当然、数値がずらーと出てくる)が何を示すのかサッパリ分からない状況で、今思うとまだまだ未熟でした(多分、今ならちゃんと計算しちゃう気がします)。あの当時に今持っている知識と技術があれば、また一味違った人生だったかもしれません。
天体物理の重力計算が分子生物学のタンパク質のシミュレーションにも応用ができるというのも興味深かったです。そこに「気づいてしまう」のには分野を超えた広い視野が必要なんだなあとも感じました。
私はどちらかと言うと「物理学の道をとことん突き詰めていく」タイプではなく、「物理学を中心軸にして幅広くいろんなことを理解していこう」というタイプだと思っています。実際、学生時代には物理学の講義はもちろんですが、空いたコマには「単位認定はどうでもいいから授業を受けさせてくれ」と頼んで数学科や化学科の講義に出ていました。私はこの越境受講を「もぐる」と言っていました。同期のKanちゃんとよく"もぐって"ました。よその学科の人たちからは「なんでいるの?」なんて言われていましたが、数学は物理学では道具として駆使するし、化学(特に理論化学)はほぼ物理学でした。化学科の学生より物理の知識があるぶん、化学科の学生よりテストの成績が良かったこともありました。分野を超えた話が理解できるのが楽しかったし、そこから何か新しいこと(物理学の分野でも他の分野でも)が発見できるんじゃないかと思ってました。そんなことを本を読みながら思い出しました。


兎にも角にも、この本は読みやすかったです。前2冊が辛かっただけに気持ちよく読めました。著者が漫画原作者もやっているからかもしれません。「栄光なき天才たち」も読んでみたいです。あ、どっちかというと今は「BRAINS」のほうが興味あるなあ。


http://brains.te.chiba-u.jp/~itot/index.htm